骨髄異形成症候群(MDS: MyeloDysplastic Syndrome)と骨髄増殖性腫瘍(MPN: Myeloproliferative neoplasms)はどちらも血液内科で出てくる疾患グループだが、略称が似ている上、MDS/MPNなんていうものも存在してとても分かりにくい。
MDS(骨髄異形成症候群)
MDSは、端的に言えば骨髄の造血がうまくいかなくなった(=異形成)症候群。変な形の芽球は骨髄中でアポトーシスを起こすため、末梢血にはあまり出てこない(無効造血と呼ぶ)。血球が少なくなるため骨髄は過形成となるが、結局アポトーシスになるので汎血球減少をきたす。このMDSは途中でアポトーシス機能を失い、高率にAML(急性骨髄性白血病)に移行することが知られているため、MDSは前白血病状態ともいわれる。また、環状鉄芽球(ミトコンドリアでの鉄代謝異常によって核の周りに環状にて鉄顆粒が見える)が出現しやすいのも特徴の一つ。
MDSにおいて骨髄中の芽球比率は5~19%と定義されている(ただRAのように5%未満でも異形成がある場合はMDSと診断される)。AMLでは無効造血が起こらなくなるため芽球比率は増え、定義上は20%以上の場合をいう。
MDSの分類はたくさんあるが、とりあえず重要そうなものを挙げてみる。
不応性貧血(RA: refractory anemia)
骨髄の芽球比率が5%未満(つまり正常値)で、末梢血にもほとんど認めないが、異常クローン細胞の増殖によって貧血を示す⇒鉄・ビタミンB12・葉酸などに反応しない(不応性)。
ちなみに芽球比率が5~19%と増えてくると、芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB: RA with excess of blasts)と 呼ばれるようになり、RAより白血病への移行確率が増え、予後も不良となる。
5q症候群
男性の高齢者に多い他のMDSとは異なり女性の中高年に多い疾患で、特徴的な染色体異常(第5番染色体の長腕単独欠損)がある。大球性貧血を起こすが、予後良好。
MPN(骨髄増殖性腫瘍)
MDSと同じく骨髄の過形成(腫瘍性増殖)を示すが、血球は分化成熟しており、形態学的異常を認めないのが違い。また形態学異常がないため末梢血にも異常クローン細胞が出現する。それぞれ主として増殖する細胞(白血球・赤血球・血小板・線維芽細胞)によって大きく4種類に分けられる。CML以外はJAK2遺伝子の変異が関連していることが多い。
慢性骨髄性白血病(CML)
分化能を失っていない異常クローン細胞が増殖し、成熟した顆粒球が著増する。初めの状態(慢性期)では肝脾腫、食思不振などの症状しかないが、不安定な遺伝子に新たな異常が加わりやすく、移行期を挟んで数年以内に急性転化を起こす。AMLあるいはALLの状態となり、予後不良。急性と慢性の違いは以下も参照。
Ph(フィラデルフィア)染色体
9番と22番の相互転座によってできた染色体で、CMLの95%にみられる。9番に位置するc-ABLという遺伝子と22番にあるBCR遺伝子が融合してBCR/ABLという遺伝子が形成。するとTK(チロシンキナーゼ)が強く活性化し、造血幹細胞のシグナル伝達が活性化、腫瘍性に増殖する。
検査所見
・白血球↑↑、血小板も増加傾向、赤血球はやや減少
・NAPスコアの減少→急性転化では増加する
治療
TKの活性化を止めれば増殖も止まるはず⇒BCR/ABLのTK活性を選択的に阻害するTK阻害薬(イマチニブ(グリベック®)など3種類)が第一選択。それでダメな場合は造血幹細胞移植。
真性多血症
絶対的多血症 (=脱水のように循環血漿量が減ったわけではなく、赤血球数が絶対的に増加)のうち、エリスロポエチン(EPO)の増加が起こっていないもの。
EPOが増加して多血になっている場合(=二次性多血症)の原因として、低酸素や腫瘍が挙げられる。
主に赤芽球の前駆細胞が腫瘍性に増殖するが、白血球・血小板も増加し、骨髄も過形成。成熟白血球が増加するので、NAPスコアは増加する。
治療
①瀉血(しゃけつ)…定期的に血を抜いて血液の粘稠度を下げる
②化学療法(ヒドロキシカルバミド)…血栓症のリスクが高い場合に用いる(二次癌のリスクもあるので基本は高齢者に使う)
本態性血小板血症
血小板の増加+骨髄における巨核球(血小板の前駆細胞)の過形成⇒血栓症のコントロールが重要
骨髄線維症
線維芽細胞が腫瘍性増殖を起こすのとは違い、異常クローン細胞から出されるサイトカインによって反応性に繊維化が起こると考えられている(らしい)。初期は無症状だが、線維化による機能不全と髄外造血により正球性正色素性貧血や脾腫をきたす。肝腫大も脾腫ほどの頻度ではないが見られる。
検査所見
・涙滴赤血球、赤芽球・幼若白血球の出現=白赤芽球症…髄外造血では骨髄と異なり芽球や奇形の血球が外に出てしまう
・NAPスコア増加…骨髄が使えないので髄外造血が盛んになり、白血球も頑張って作る
・白血球、血小板の数はまちまち
・骨髄穿刺でdry tap→骨髄生検では巨核球が増加
dry tap、白赤芽球症についてはこちらも参照。
<参考>
STEP 内科2 感染症・血液 第3版