母乳が十分に出ない場合や母乳を与えられない場合には、代替品として調製粉乳を用いることになる。調製粉乳の原料は牛乳で、成分を母乳に近づけるべく様々な調整がされている。母乳が乳児の栄養に最も好ましいことは事実だが、それぞれに短所と長所が存在する。
牛乳・母乳・調製粉乳のそれぞれの成分の違いを示した表。乳児用調製粉乳|一般社団法人日本乳業協会より。
母乳と牛乳の違い
エネルギー
これは母乳と牛乳で同じだが、その構成が異なる。
タンパク質
牛乳の方が多いため、腎臓への負担は母乳より大きくなる。また、母乳は牛乳に比べてアルブミン・グロブリンなどの乳清タンパク質が多く、カゼインが少ない。母乳は60%が乳清タンパク質で40%がカゼインなのに対して、牛乳は20%が乳清タンパク質で、80%がカゼイン。ちなみにカゼインというのは、牛乳の白色のもとになっている不溶性のタンパク質のこと。牛乳の膜を科学する - 取れたて!旬だね!食材の化学で牛乳からカゼインを取り除いているところがみれます
脂質
量はほぼ同じだが、母乳では不飽和脂肪酸が多く、リノール酸・リノレン酸・アラキドン酸(ARA)・DHAなどの必須脂肪酸(体内で合成できない)が多く含まれている。ちなみに、ARAやDHAなどの長鎖不飽和脂肪酸は細胞膜を構成するほか、中枢神経や視機能の発達に影響していると言われる。
炭水化物 (糖質)
母乳の方が1.5倍多い。主体は乳糖 (ラクトース)で、腸管内のビフィズス菌の活動を促進させるため、牛乳よりも便が柔らかくなる。
ミネラル
まず大事なのが母乳・牛乳ともに鉄の含有量が少ない。生後6ヶ月までは母体からもらった貯蔵鉄があるため不足しにくいが、6ヶ月以降になると鉄欠乏貧血を発症しやすくなるため、調製粉乳や離乳食などでの鉄の補充が重要となる。
カルシウム・リン・ナトリウム・カリウムは牛乳に多く、腎臓への負荷が大きい。
ビタミン
ビタミンKが母乳では少ないため、出生当日・生後1週・生後1ヶ月の3回K2シロップを内服させる。
調製粉乳
タンパク質
消化しにくいカゼインを減らし、カゼインと乳清タンパクの割合を同程度にしている。
脂質
牛乳脂肪(飽和脂肪酸が多い)を除き、植物油(主にリノール酸)を添加。
炭水化物 (糖質)
糖質が不足しているので、乳糖で補っている。また、母乳に少量含まれるオリゴ糖も添加(ビフィズス菌の生着を促進する)。
ミネラル
Na, K, Ca, Pの含有量を減らし、腎臓への溶質負荷を軽減。またカルシウムとリンの割合を母乳の比率に近づけている。鉄もちゃんと追加。
ビタミン
全部強化。
母乳の利点
調製粉乳に比べて良い点をいくつか。
感染予防
分泌型IgAが含まれているため、腸管の免疫能が高まるほか、ラクトフェリンやリゾチームなどの免疫物質も働く。
アレルギーが少ない
牛乳に含まれるタンパクが抗原となって牛乳アレルギーを起こす可能性がある。またアレルギー性疾患全体の確率も低くなっている。
適温・清潔かつ経済的
母乳は常に清潔で、温度管理も必要ない。調乳の手間もかからず、もちろん経済的。
スキンシップ
母親に抱かれて母乳を飲むことで安心感を得られ、愛情形成にも繋がる。
などなど。
<参考>
STEP 小児科 第3版
母乳育児支援スタンダード 第2版