心音には特有の名称や人の名前のついたものが多く存在していて、よく分からなくなるのでまとめてみました。
その2はこちら
収縮期
収縮期駆出性雑音
大動脈弁狭窄症(AS)や、肺動脈弁狭窄症(PS)などで聴こえる、漸増–漸減性の雑音。その名の通り狭くなった弁口を頑張って駆出することで生じる。心室圧が上昇して大動脈・肺動脈を通る血流が増えるに従って雑音も大きくなり、心室が弛緩して血流が減少すると徐々に雑音も小さくなっていく。
収縮期逆流性雑音
全収縮期雑音あるいは汎収縮期雑音とも。僧帽弁閉鎖不全症(MR)や三尖弁閉鎖不全症(TR)で聴こえる音で、収縮期の雑音が一定の大きさであることが特徴。I音のタイミング=僧帽弁や三尖弁が閉まる直後から聴こえ、II音が始まる=大動脈弁や肺動脈弁の閉鎖までずっと聴こえる。
収縮中期(後期)クリック
僧帽弁逸脱症(MVP)で発生する音。MVPは収縮期に僧帽弁の一部が左房側へ逸脱する疾患で、僧帽弁の前尖と後尖が接合不良を生じてMRの原因ともなる。弁が左房に逸脱する際に急激に弁や腱索が緊張することでクリック音が生じる。
http://feghalicardiology.com/mitral-valve-proplapse/より
拡張期
拡張期灌水様雑音
拡張早期雑音とも。大動脈弁閉鎖不全症や肺動脈弁閉鎖不全症では、拡張期に大動脈あるいは肺動脈の血液が逆流し、雑音を生じる。拡張期では動脈と心室の圧較差が大きく、血液量も多くないため、高調性の音になる。灌水とは「農作物や草木に水を注ぐこと」らしい。
拡張期ランブル
ランブル(rumble)は、雷やお腹がゴロゴロ鳴る、といった意味。拡張中期雑音、輪転様雑音・遠雷様雑音と呼ぶことも。
僧帽弁狭窄(MS)、あるいは三尖弁狭窄(TS)で聴かれる音で、狭窄した弁口を通る際に血液の乱流が起きて雑音を生じる。房室間の圧較差が少ないためゴロゴロとした低張の音になる。
拡張期の始まりは大動脈弁・肺動脈弁が閉まってから≒ II音が聴こえてからだが、血液が心房に入ってきて心房圧>心室圧となった時に僧帽弁・三尖弁が開く。そのためランブルは拡張期の中期〜後期にかけて聴こえる。
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2000dir/n2392dir/n2392_11.htmより
他にも、僧帽弁や三尖弁を通る血流が増えたりして相対的なMSやTSをきたすと、拡張期ランブルが聴こえることがある。
ex.
・大動脈弁閉鎖不全症(AR)…拡張期に大動脈から血液が逆流してくることで、僧帽弁が開きにくくなる。Austin Flint雑音。
・僧帽弁閉鎖不全症(MR)、動脈管開存症(PDA)など…僧帽弁通過血流が増えることで相対的にMSをきたす。Carey Coombs雑音。
・三尖弁閉鎖不全症(TR)、心房中隔欠損症(ASD)…三尖弁通過血流が増えることで相対的にTSをきたす。
僧帽弁開放音
opening snap (OS)とも。MSで聴こえる音で、僧帽弁が肥厚・狭窄しておりその伸展によってカチッという音が鳴る。拡張早期のOSで僧帽弁が開き、その後拡張期ランブルが聴こえる。
前収縮期雑音
収縮期の前=拡張終期に始まる漸増性の雑音。心房が収縮して残った血液を心室へ送り出すことで聴こえる。
→OSや前収縮期雑音の有無がMSとAustin FlintやCarey Coombsとの相違点となる。
収縮期と拡張期
連続性雑音
全収縮期雑音とはまた違うので注意。
心周期全体にわたって聴かれる雑音のことで、動脈管開存症(PDA)が代表例。収縮期には大動脈圧が肺動脈圧より高いため、動脈管を通って大動脈→肺動脈へ。拡張期にも大動脈圧は依然肺動脈圧より高いので、ここでも同様に大動脈→肺動脈への血流が続く。よって収縮期にだんだん雑音が大きくなり、II音の位置で最強点となり、I音まで漸減しながら続くような雑音を生じる。
往復性雑音(to-and-fro murmur)
AR+ASや、PR+PSなど、収縮期と拡張期の両方にそれぞれ別の雑音が聴こえる状態。雑音の原因としては別のものであり、II音はまたがないのが連続性雑音との違い。
<参考>
病気がみえる 循環器 第4版
ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理 第3版