抗癌剤の種類は多くあるけれど、細胞周期のいずれかのポイントを阻害して作用を示すものが多い。癌細胞は正常細胞が非自律的に無秩序に増殖してしまう細胞なので、細胞周期(=細胞分裂が起きる周期)を阻害されると、正常細胞に比べてその影響を受けやすい。そこで代表的な抗がん剤を細胞周期の観点も含めてまとめてみました。
細胞周期
M期 (Mitosis)…有糸分裂期
G1期 (Gap1)
S期 (Synthesis)…DNAの複製
G2期 (Gap2)
これを繰り返す。
抗がん剤の分類
抗がん剤には、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質など様々な種類があるが、それぞれ異なった作用機序を持ち、細胞周期特異的に作用する抗がん剤もある。おそらく重要なのは代謝拮抗薬→S期阻害と、微小管=パクリタキセル、ビンブラスチン→M期阻害かな…
http://www.phs.osaka-u.ac.jp/homepage/yaku/sotugo/pdf/h19_05_1.pdfより
アルキル化剤
シクロフォスファミドなど
DNAに直接作用、二重鎖内で架橋を形成する
→細胞周期非特異的にDNAを障害
白金製剤
シスプラチンなど
中に白金が入ってる。アルキル化剤と似たような機序
代謝拮抗薬
S期においてプリン、ピリミジンの取り込みを阻害 (新しくDNAを作る際に材料となる核酸を使えない)
葉酸代謝拮抗薬(メトトレキサート)
→葉酸を活性型葉酸にする酵素の阻害
→dTMP(チミジル酸:チミン)の合成を阻害
ピリミジン代謝拮抗薬(フルオロウラシル)
チミジル酸シンターゼ阻害薬
→dUMPからdTMPへの変換を阻害
フルオロウラシルは、ウラシルの5位H原子がFに変換された構造を持っている。なのでチミジル酸シンターゼはdUMPの代わりにフルオロウラシルを取り込んでしまうことにより、働きが阻害される。
次のメルカプトプリンも同様で、アデニン・グアニンの構造を模倣することで代謝酵素を阻害している。
プリン代謝拮抗薬(メルカプトプリン、アザチオプリン)
IMPデヒドロゲナーゼ (IMPDH)阻害薬
→IMP (イノシン1リン酸)からグアニンとアデニンを作る際に必要な酵素を阻害する。
※アザチオプリンは体内でメルカプトプリンに変換されるプロドラッグで、主に免疫抑制剤として使われる。
トポイソメラーゼ阻害薬
トポイソメラーゼはⅠ型とⅡ型があり、それぞれ一本鎖、二本鎖DNAの螺旋構造を制御している
アントラサイクリン系薬(ダウノルビシン、ドキソルビシン)
→DNA内に挿入され、Ⅱ型トポイソメラーゼを阻害する
→DNAの複製(S期)を阻害
抗腫瘍性抗生物質
微生物由来の抗がん剤。つまり抗生物質の中でも細菌ではなく癌に有用なもの。上述のアントラサイクリン系薬も、放線菌から作られたためこの枠に入る。
ブレオマイシン
→非酵素的にDNA鎖を切断、G2期を阻害する(なぜG2かは不明)
微小管重合阻害薬
ビンブラスチン、ビンクリスチンなど
M期において、微小管と呼ばれるタンパク質がDNAを両極に移動させる際に必要となる。このタイプの抗がん剤は、微小管の重合を阻害することで細胞分裂を妨害する。
(痛風発作の際に使われるコルヒチンも微小管重合を阻害する)
微小管脱重合阻害薬
パクリタキセルなど
こっちは逆に脱重合を阻害
→DNAが両極に移動して、重合していた微小管を解くことができない
→微小管が安定化しちゃうので細胞分裂が終わらない
→アポトーシスを誘導する