心音のII音は、心臓が拡張した時に大動脈弁と肺動脈弁が閉まる時の音。大動脈弁成分をIIA、肺動脈弁成分をIIPとすると、特定の条件下でIIAとIIPの2つの音がバラバラに聞こえることがある(分裂)。
生理的分裂
その名の通り普通の人でも聞こえる吸気時の分裂。
吸気時
① 息を吸うと横隔膜が下がって胸腔内圧が低下する
② 胸腔内圧による圧迫が取れた静脈は拡張して、右室へ戻ってくる血液の量が増える=静脈還流量の増加
③ 右室が肺動脈へ駆出する血液量が増える
④ 駆出時間の延長によって肺動脈弁の閉鎖 (IIP)が遅れる
固定性分裂
呼吸によらずIIAとIIPの間隔が固定されていて、変わらない。心房中隔欠損症(ASD)。
ASD
https://www.ach.or.jp/about/daVinci/disease04.htmlより
ASDでは左→右シャントが起きることにより、右心系の容量負荷が常にかかっている。そのため右室から肺動脈への駆出時間が長くなり、IIPは呼吸にかかわらず正常より遅れている。また、吸気時に静脈還流量が増えて右心系へ血液がたくさん来たとしても、もともと容量負荷がかかっているためそれ以上は増えにくく、増えたとしても左→右シャントが減少することによってその分は相殺されてしまうため、呼気時と分裂具合は変わらなくなる。
※ちなみに左心房にとっては、吸気時には肺血管が広がって血流がプールされるため、血液が帰りにくくなる。そのため左心房から右心房へシャントする血液量も減る、という機序もある。
病的分裂
呼気でも吸気でもII音が分裂して聞こえる。右室の駆出時間が伸びたり、遅れたりする場合。肺動脈狭窄症(PS)や右脚ブロック(RBBB)。
PSの場合
肺動脈が狭いため、右室から肺動脈へ駆出するのに時間がかかる→吸気・呼気ともに肺動脈弁の閉鎖が遅れる。
右脚ブロックの場合
左室の興奮の後に右室の興奮が出てくるため、右室の収縮が遅れて肺動脈弁の閉鎖が遅れる。
奇異性分裂
IIAとIIPの順序が逆転し、肺動脈弁の方が早く閉まる。また、普通の分裂とは逆で吸気時よりも呼気時の方が分裂がよく聞こえる (奇異性の所以?)。左室の駆出時間が伸びたり、遅れたりする場合で、大動脈弁狭窄症(AS)や左脚ブロック(LBBB)が主な例。病的分裂とは真逆の機序。
ASの場合
大動脈弁が狭いため、左室から大動脈へ駆出するのに時間がかかる→吸気・呼気ともに大動脈弁の閉鎖が遅れ、IIPの後にくるようになる。
左脚ブロックの場合
右室の興奮の後に左室の興奮が出てくるため、左室の収縮が遅れて大動脈弁の閉鎖が遅れる。
<参考>
病気がみえる 循環器 第4版
ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理 第3版