鼠径(鼡径)部の解剖
鼠径(鼡径)管 (inguinal canal)というのは腹腔と鼠径部の皮下とを繋ぐストッキングのような空洞のことで、腹腔側の出口を深鼠径輪 (内鼠径輪: internal inguinal ring)、皮下側の出口を浅鼠径輪 (外鼠径輪: external ~)と呼ぶ。この中に入っているのが精索、女性の場合は子宮円索。子宮円索は子宮を前方から固定しているもので、浅鼠径輪を抜けて大陰唇の結合組織中に放散する。男性の場合は、胎生期に精巣が下降するため、精索(中に精管、精巣動静脈、神経、リンパ管などが通る)が鼠径管を抜けて精巣に至る。
図が英語ですみません。上から
inferior epigastric artery and vein:下腹壁動静脈
rectus abdominis muscle:腹直筋
internal inguinal ring:深鼠径輪 (内鼠径輪)
inguinal ligament:鼠径靭帯
external inguinal ring:浅鼠径輪 (外鼠径輪)
femoral artery / vein:大腿動静脈
femoral ring:大腿輪
spermatic cord:精索
外鼠径ヘルニア
乳幼児期の男児+成人男性に多いタイプで、頻度も高い。
精巣が下降して鼠径管を通る際、一緒に腹膜も連れてくるため、精巣と腹腔は腹膜でできた細い道(腹膜鞘状突起)で覆われることになる (2個目の図)。これは大体2歳までに閉鎖するのだが、そのまま開存しているとそこに腸が入り込みやすくなってしまい、ヘルニアを起こす。上の図のように浅鼠径輪から深鼠径輪へと脱出する訳だが、下腹壁動静脈よりも外側から脱出するため外鼠径ヘルニアと呼ぶ (もしかしたら単純に、内鼠径ヘルニアよりも外側から脱出するから外鼠径かも…)。
http://www2.plala.or.jp/shounigeka/hernia.htmlより
内鼠径ヘルニア
中高年男性に多く、頻度は少ない。
上の図にあったHesselbach's triangle (ヘッセルバッハ三角)というのは、下腹壁動静脈・服直筋・鼠径靭帯で囲まれた部分のことで、他に比べて脆弱な部位となっている。ここに加齢や腹圧のかかりやすい肥満・立ち仕事などの因子が加わり、三角部から直接腹壁を貫いて浅鼠径輪へと脱出する。そのため小児ではほぼ起こらない。
こっちも英訳を追加。
parietal peritoneum:壁側腹膜
extraperitoneal fascia:腹膜外筋膜
conjoint tendon:結合腱
peritoneal bulge / sac:腹膜の膨隆・嚢といった意味
testis:精巣
ちなみに、内鼠径ヘルニアは直接鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニアは間接鼠径ヘルニアという言い方もある。これは直接腸が脱出しているか、鼠径管を通って間接的に腸が脱出しているのか、の違い。ちなみに僕は「鼠径管の内部を通るくせに外鼠径!」と覚えています。
大腿ヘルニア
似たような位置に出るやつに大腿ヘルニアもある。こいつは一番上の図のfemoral ring =大腿輪から脱出するもので、大腿静脈のすぐ内側にある。この部分もまた筋膜1枚で覆われているだけの脆弱な部位でヘルニアが起こりやすい。女性は男性に比べこの大腿輪が大きく、分娩によってさらに脆弱になることから、妊娠を経験した中年女性に好発となっている。