胃癌の手術をする際には、胃の3分の2以上の切除とリンパ節郭清が標準となる。そのため癌の部位によって大きく分けて幽門側胃切除(下の方を取る)・噴門側胃切除(上の方を取る)、胃全摘(全部取る)の3種類の術式がある。そのほかにも、幽門保存胃切除といって、幽門部は残して真ん中だけ取るというやり方もある。
どの方法をとるにせよ残った消化管をつないでくっつける(再建する)必要があり、様々な種類および長所・短所がある。
胃の解剖
http://www.tatsumi-sunrise.co.jp/oyakudachi/72/より
幽門側胃切除(左)と噴門側胃切除(右)
幽門側胃切除
幽門括約筋を取るので、十二指腸から胃へ胆汁や膵液が逆流しやすくなってしまう。
Billroth I法
「ビルロート」と読む。一番単純かつ多く行われる方法で、残った胃と十二指腸をそのまま繋げる(端々吻合)。
長所
・食物が胃→十二指腸→空腸と通るので流れが生理的
短所
・十二指腸は腹膜で固定されているため、吻合部に張力がかかりやすい上、残胃が小さいと距離的に繋げない
・十二指腸液の逆流による残胃炎(からの残胃癌)、食道炎の頻度が高い
http://medical-dictionary.thefreedictionary.com/covered+operationより
Billroth II法
十二指腸側の断端は閉鎖して、残胃と空腸とを吻合する。
長所
・空腸は固定されていないため、残胃が小さくても繋げる
短所
・輸入脚症候群の危険性
・十二指腸液の逆流による残胃炎(からの残胃癌)、食道炎の頻度が高い
輸入脚症候群については以下記事へ。
Roux-en-Y法
「ルーワイ」と読む。Rouxさんが作ったY字型につなぐ方法、くらいの意味。十二指腸側の断端は閉鎖して、空腸も一部切除。残胃空腸吻合と、空腸空腸吻合の2箇所で吻合を行う。
長所
・十二指腸液の出口はより肛門側 (2箇所の吻合部は40cm以上離す)にあるため、逆流は起きにくい
図中にあるpancreas and ductsと書いてあるのが膵臓(黄色いやつ)と膵管(黄色の管)+胆管(緑の管)で、ここから十二指腸へ矢印の方向に膵液・胆汁が流れてくる。膵液・胆汁の流れを追っていくとroux-en-Yはbillrothと違って、消化液が胃の中へ入りにくいことが分かる。
短所
・Billrothに比べて手技が煩雑
胃全摘
基本はRoux-en-Y法。こちらは胃は全部取ってしまうので、食道空腸吻合+空腸空腸吻合を行う。長所短所ともに前述と同じ。
噴門側胃切除
こちらは下部食道括約筋が失われるため、逆流性食道炎が起こりやすくなる。
食道残胃吻合法
そのまま繋げる (下図左)。簡便だが、逆流が必発なので、防止機構(His角、噴門の再建)が必要になる。
空腸間置法
空腸を一部取ってきて挙上し、残胃と食道の間に入れる (下図右)。上の方法より吻合部が増えるため煩雑になってしまうが、逆流は起こりにくい。
http://homepage2.nifty.com/arai_h/i_op_rekisi.htmより
参考:
標準外科学 第13版
STEP 消化器外科・小児外科 第2版